「どうした?」

静かな場所に止まってある車の中、あいの笑顔が、今日は寂しく見えた。

「ん?」

少し、間を置いて、あいは口を開く。

「昨日、別れた。」

「………は?」

昨日、何てメールしていたっけな?と、ふと思う。

気の利いたこと、言ってあげれたかな。と、あいが彼氏と別れた事より、そう思ったことの方が、大きかった。

「自分から?」

「ん~ん。向こうから。」

段々と、暖かくなるのが分かる季節になってきていたのに、あいの気持ちは、よく、分からないまま。

「あっちが、別れを告げなかったら、別れてないもんね?まだ、遅くないよ。考え直してみな?」

甘えてもいる。

それと、悲しみもある。

だけど、一番感じたのは、今までの『変な関係』が、崩れるのが嫌だ。という、僕のズルイ考え。

「いや、いい。」

「気使わなくていいよ。俺が、メールしてあげるから!!」

強引に、あいの携帯を奪おうとする。

「いいってば!!」

涙目で怒るのは、やっぱり、傷付いてるんだよね。

「ごめん。でも、もっと考えた方がいいよ。」

先輩みたいに、優しい人は、きっと、いないと思うから。

「でも、彼女いるっぽいし。」

「何で知ってるの?」

「彼氏の友達が言ってた。」

その人も無神経だな。と思ったけれど、それを信用するあいも、無神経だとも思った。

「彼氏、信用できなかったら、誰とも付き合えないと思うよ。」

「…………。」

噂とかの類が嫌いな僕だけど、二人が決めたことなら、第三者が口を割っても、意味が無いことも知っている。

「はぁ。じゃーさ、俺達も別れなきゃね。」

と、冗談で言ったつもりだったけれど、あいが、突然、泣き出してしまった。

「ほら。悲しいんじゃん。」
「違う!!」

僕も、そんな寂しい笑顔を見せられたらさ、凄く悲しいよ。

不安になるんだよ。

「ゆうくんが、好きだもん…。」

「…………。」

好き。の深い意味が、まだ、よく分からないけれど…。

「…ならさ、笑ってよ。」

そう言うと、必ず笑ってくれるあいが、とても苦しかった。

「本気になるな。って、言ったのに。」

笑って、あいは、こう答えた。

「もう、本気になっちゃった。」

その言葉がね、言葉にできないくらい、愛しかった。

「…この野郎。もっと、本気になっちゃえ!!」

慰める方法は、これで合ってたのかな?

泣きながら笑うあいに、何度もキスをして、涙が止まるまで、頭を撫でてあげること。

「でもさ、俺は無理だよ。そんな簡単に、別れられない。」

だって、あいが別れるなんて、考えてもいなかったから。

「いいよ。いつか、彼女になれるまで、頑張る!!」

付き合おうと言えば、簡単だけど、その純粋な気持ちを『簡単』だけで済ませることは、いけない気がしたから。

その言葉で、全てを決めたんだよ?

「分かった。俺も、あいを彼女にするように、頑張るから。」

そう言わないと、また君が泣いてしまいそうで、怖かった。

君の笑う顔が、好きだったから。

「でも、その間、お前は、それでいいの?好き同士だけど、周りからしたら、体だけって感じだよ?」

少しだけ、切なく笑って、いいよ。と言ってくれた、あい。

「だ~か~ら、好きだから言うんだよ?俺は、体だけって思いたくないし、彼女にしてあげれない期間だけ、サヨナラしよう。って。」

都合の良い女。にすることは、簡単だけど。

「会えないのは、もっと、嫌。」

ずっと、そんな言葉を、僕は聞きたかったのかもしれない。

「俺、最低な男じゃない?」

「あいだけは、ゆうくんのこと、分かってるもん。」

ちゃんと、気持ちは伝わってたのかな?

「ありがとう。こんな関係でも、あいが一番好きだから。」

今、君のことを、世界中の誰よりも、僕は好きみたい。

「うん!!」






二週間程度、本当にこれでいいのだろうか。と考え込んだ。

誰が、一番、『永遠』をくれるのか。

まだ、不確かだけれど、人を愛してみよう。と、柄にもなく、思ったんだ。

「あのさ、別れよう?」

長年、付き合った彼女に、別れを告げた。

当然、嫌だ。と言われたが、距離を置きたい。と、ちゃんとは言えなかったが、別れ。を、ちゃんと言った。

遠距離の彼女とは、適当でいいや。なんて、ずっと、考えていたから、曖昧なままにしていたけれど。

沢山悩んで、一人の女性(ひと)だけを見ていいのか、沢山不安で…。

でもね、

「あのさ、彼女と別れたから。」

「うん。」

「だから…。」

だから、神様、この人なら愛してもいいんだよね。

もう、恋で傷付かないよね。

「俺と、付き合おうか?」

あいは笑って、言ってくれた。

「うん!!」

そして、泣いてくれた。

季節外れの雪がちらついていて、車のガラスを、ワイパーが拭き取っていた。