今、立っている場所よりも、高い山には敵わないと思うが、街並みを見下ろすと綺麗な街灯達。

風も涼しいのだが、やはり、激しく僕らを襲う。

錆びた手摺(てすり)の向こうは綺麗だが、下を覗き込むと、落ちると助からないだろう、木々が沢山ある。

隣りで、景色を眺めるあいが、体を震わせているのが分かる。

「これ、着てて。寒くないから。」

首を横に振る、あい。

「困った子。」

恥ずかしがりの子だから、後ろから誰にも見られないように、筒み込む。

「あと、二分。」

冷たい携帯を開き、時計を見て、呟く。

「ねぇ。」

「ん?」

何か言おうとしたのだが、忘れてしまい、沈黙が続く。

「何?」

寒いのだろうか、怒ったようにも感じる、あい。

「いや、後一分。」

そう言うと、あいは笑って、カウントダウン。と言って、数え始めた。

「…ごじゅうきゅう…ごじゅうはち…」

「にひゃく…よんじゅうに…はちじゅう…」

あいが僕の顔を見て、負けないよ。と笑って、続きを歌う。

「…ごじゅういち…ごじゅう…よんじゅうきゅう…」

僕も負けず嫌いなのだが、あいの頑固さに負けてしまい、言葉を変えた。

「俺のこと好き?」

聞かなくても分かっているのだが、笑って僕を見て、

「…さんじゅうなな…さんじゅうろく…」

と、頑固さん。

「ふーん。嫌いなんだ。」

こんな時間も、好きだよ。

「…さんじゅうよん…さんじゅうさん、好き…さんじゅうに…」

どこまでも、可愛いんだから。

「サンジュウさん…って誰?浮気?」

笑う君の肩に、顔を乗せて、この野郎。と強く抱き締める。

「…にじゅうに…にじゅういち…」

もう少しか。なんて、いつの間にか、あいのペースに入っていた。

「キスしてほしいな。」

「…じゅうなな…じゅうろく…」

「してくれないんだ。」

彼女は、それでも数を歌う。

「…ういち…じゅう…きゅう…」

ドーン!!

と、あいの声を邪魔するように、僕らより低いところで、花火が上がった。

二人して笑って、

「今、新年になったんだね。」

と言って、携帯の時計が、少し遅かったんだ。と言い訳をして、

「おめでとう。」

「うん。おめでとう。」

新しい年を、二人で迎えたことへ、冷たい唇にキスをする。

「あいの、今年初めてのキスを奪っちゃった。」

好き。が増えていく。

「だけど、俺の初チューあげたのは、後悔するなぁ。」

大好き。が強くなっていく。