「よっ。」

いつもの場所で、いつものキス。

「本気になるなよ。」

さぁ。なんて、笑いながら、あいは、僕の隣りに座ってる。

「彼氏を、大切にしな?」

今のままが、一番、良い関係だ。と、思っていた。

「…………。」

いつものベンチに座り、下を向いたあいを、笑わせてあげたい。と思うのは、愛してる。ではない。

好きな人。だから。

「じゃーさ、何で、彼氏とエッチしたの?」

妬きもちも、あるけれど。

「その時は、好きだったから。」

「今は?」

「…分からない。」

キスをしている時は、幸せ。と思うのに、どうして、話しをすると、不安になるんだろう。

少しの間だけ、鈴虫が鳴いていた。

「ねぇ。」

突然、あいが話し出す。

「何?」

「何で…キスしたの?」

静かな公園に、あいの声が、少しだけ響いた。

「好きだから…じゃない?」

好きだから。とは、言えず、疑問系で投げ掛けてしまうのは、やはり、不安だったから。

「うん。」

きっと、僕は、ズルイ。

「お互い、カレカノいるじゃん。お前が、フリーなら、キスはしていないよ。」

軽い気持ちで、キスをした訳でも無いけれど。

「きっと、それに、答えきれないからね。」

僕だって、男なんだから、関係を持っていない好きな人には、良い人。に思われたくて、笑わせてあげる。

あいにだって、誰にだって、そう。

でも、愛してしまったら、きっと、幻滅される。

知っているから。

「…………。」

何も言わないあいにもだけど、少し昔の『トラウマ』を考えると、苛立ちを隠せなかった。

「だから、本気になるなよ。帰ろう?」

あいの頭を、一度だけ撫でて、立ち上がり、あいの手を引いた。

「ほら、帰るぞ。」

下を向いたまま、微動だにしないあいの前に立った。

「今から、魔法を使うから。」

繋いだ手を握り変え、右手が、あいの頬に触れる。

「目を三秒だけ閉じたら、立ち上がれる魔法を。」

そんな、魔法。

「はい、目を閉じて。」

そんな時だけ、素直なあいは、目を閉じた。

三秒間で、僕にできる魔法。

君に、キスをすること。

「ほら。帰ろう?」

無器用な二人へ、恋の魔法を。