重なる唇と唇は、たったの、一秒だったかもしれない。

だけど、時間が止まった、魔法の世界にいるようにも思えた。

「…………。」
「………しちゃった。」

恥ずかしさを隠すために、僕から口を割った。

あいが、困った顔をしていたのか、照れた顔をしていたのか、見えなかった。

それに、気付かないくらい、頭が真っ白だった。

ただ、素直になれない僕は、

「浮気かよ。」

って、言っていた。

「…………。」

何も話さないあいがいて、必死に誤魔化すつもりだったけれど、あいの首に回した手まで、隠すことができなくて、

「好きだよ…。」

なんて、言葉が出ていた。

こんなに、気持ちが溢れてしまうのは、あいが、初めてで戸惑った。

「もう一回だけ、キスしよう?」

小さく頷(うなず)くあいに、もう一度、目を閉じて。と言った。

三日月だったのに、異様に眩しくて、僕も目を閉じていた。

二回目のキスは、長くて…長く熱いキスを求めていた。

三度(みたび)、目を閉じて。と言うと、笑いながら、目を閉じているあいが可愛くて、

「そんなにキスしたいなんて、あいのエッチ。」

もう。と、言われたけれど。

凄く幸せな気分だった。

今、君には彼氏がいる。

僕には、彼女がいる。

そんなの、お互い、忘れていたのかな。

優しい君だから、分からないけれど、嬉しかった。

「手。」

と、無器用な僕と君の手が繋がった。

指と指が絡み、まるで、付き合ってるみたいに。

でも、やっぱり、距離があるのが分かる。

その不安に負けないように、少し強く、手を握り締めた。

痛かったかな?

あいの手を引き、公園の階段を降りて、暗い夜道を歩幅を合わせ、近所の犬が吠えて。

あいの家の前に来て、じゃーね。と言われて、繋がれた手を離したくなくて、こっちへ連れて来た、僕の手。

ほどけそうな、君の細い手。