数分の間、また虫の寝息だけが聞こえ、それに耐えきれなかったように、あいは、椅子から離れた。

「見て、見て!!」

と笑いながら、さっき何かを書いていた場所へ、僕を呼ぶ。

僕は、重たく感じる体を立ち上がらせ、あいの横に、膝を抱え座った。

笑いながら僕を見ている、あいが書いた、有名なキャラクター達。

あいは、僕がそれに目を向けたのを確認した後に、付け足した。

「上手でしょ?」

お世辞で、まぁまぁかな。と言いながら、あいが持っていた棒を借りて、僕も、絵を書いてみた。

「…下手だね?」

と、笑いながら言われて、つい僕も笑って、そっちこそ。と言った。

少しだけ怒って、また笑って、あいは、間を置いて話し始めた。

「これ、何でしょ?」

あいに再び奪われた棒は、地面を指差している。

「絵。」

あいつが、地面で笑っている。

「ブー。」

わざと答えないまま、続けて答えを探す。

「ネズミ。」

ここまで言えば、答えを出さなくても、あいなら分かるはず。

「ブー。」

意味が、分からない。

「ブー。しか言えないの?」

何だろう。

「ブー。」

馬鹿にした様に、ニコニコしているあい。

「は?なら、何?」

あいは、笑って答える。

「ゆうくん。」

二秒くらい経ってから、ん?と、あいに乾いた目を向けた。

「ゆうくんはね、いつも笑ってる。だから、元気出して?」

言葉が…、出て来ない…。

また、涙しそうだったが、ゆうくんは、笑ってる。と、言ってくれたあいに、やっと出た言葉が、

「俺、こんなに不細工じゃないし。」

もう。と怒って棒きれで、腰もとを突つかれそうになったけれど、僕は、笑ってた。

素直な言葉達も、頭の中では、沢山、溢れたんだけど。

「これ、何だ?」

僕は、右の人差し指を、地面に向けた。

「下手で、分からない。」

笑いながら、はっきりと言われて、つい、

「うん。あいさん。不細工だから。」

と、素直な言葉は出て来てはくれなかったけれど、ただ、笑えてた。

あいが怒る姿も可愛くて、笑ってた。

気が付くと、棒を返せ。と、追っかけていたのだが、捕まえたと同時に、あいの後ろ姿を、抱き締めていた。

「ありがと。」

素直になれてたよ。

どんなラブレターより、素敵だった。って。

ただ、真剣に、ありがとう。を言った僕に、あいは『こちょこちょ』をした。