ひんやりと心地良い冷たさが頬に触れる。暗い朦朧としていた意識が呼び戻される。薄らと目蓋を開けると白い布地――。カーテンが見えた。陽依は頬を手に当てると冷たいタオルが当てられている事に気づいた。濡れたタオルをギュっと掴むと横になっていたベッドから起き上がる。あ、ここ保健室…。

「痛たた……」

ズキッと痛む後頭部と頬を濡らしてあったタオルで冷やして、カーテンベッドから足を出して上半身だけでゆっくりと起き上がる。陽依はさっき起きた出来事を思い出した。優を突き放した後に試合が始まって、由紀ちゃんに質問されてる時に運悪くボールが後頭部に強く当たって倒れた時に頬を強くぶつけた。赤く腫れていた所は大分引いて来ていた。

「誰なんだろう………ここまで運んでくれたの。」

重かったんだろうな、自分を運ぶなんてと呑気にそう思っていた時。ガラッと扉が開く音が聞こえた。誰か入って来た。重々しい足音が聞こえて段々こっちに近づいてくるのが分かる。保健室まで運んでくれた人なのかな??ならお礼をしなければと陽依は微妙に緊張した。

「お、起きた?」

「!!!…………………あ、優」

男子特徴の青いジャージを腰に巻いて、片手には汗を掻いてる水の入ったペットボトルを持っている優が立っていた。優が、ここまで運んでくれたのかと陽依は察した。自分のジャージのポケットに手を突っ込むとある陽依はある物がない事に気づく。それは保健委員として役職が決まった時に保健室の先生に渡された保健室に入る為の合鍵だった。一つしかないから、くれぐれも失くさない様にと先生に数日前に言われたばかりなのにまさか紛失?!

「ど、どうしよう……合鍵がない!」

「あ、……陽依ごめん。」

下を俯いてた陽依の首元に何かが触れる。突然の感触に驚いた陽依は咄嗟に顔を上げる。優が何か陽依の首にかけた。長い丈がる桜色の紐に通した合鍵だった。首からその鍵を下げてもいなかった事にポカーンとしていたが、首元に垂れ下がった鍵が視界に入ると安心して大きなため息をつく。

「び、びっくりした~。」

「ごめん、紛失とかマズイだろうと思って首から提げられる様にしてみた。」

「あ、優………ありがとう。」

じゃあと言って急いでベッドから降りて優に背を向けて保健室から出ようとする陽依。突き放した自分がこれ以上彼に関わる事はないだろうとそう思い、顔を悲しそうに歪ませていた。弱い自分がこんなに勝手に突き放して自分が悪いんだそう心に言い聞かせた。

ダンと強い両腕が自分の顔に横に見えて扉が背に逃げ場はない。良く言われる壁ドンと言うやつだ。優は下に俯いて陽依に逃げ場なんて与えなかった。

「逃げんなよ、陽依。」

「…………なんで、帰らせて…」

「ひより」

「お願い……帰りたいッ…ッ…。」

嗚咽する陽依の声が聞こえて優は考えるより先に両腕を退かしいてた。上を見上げれると会う瞳涙で濡れた夕日色の瞳と真っ直ぐそれを見る青い瞳。陽依は静かに保健室を出ると優はまた下を俯いて扉を背に座り込む。

「……………泣かせた。」

「……また、放しちゃった…」



((そんな顔して欲しくなかったのに…))