「あっ、お兄ちゃん、お父ちゃん、いってらっしゃーい!」 長屋の入り口で、元気な声を響かせるのは、陽。 「今日も店来んと、タカとおるんか?」 太一は呆れたように笑う。 赤ん坊は貴也(たかや)と名付けられた。 陽は、貴也が生まれた次の日からお店には行かず、家で日がな1日、貴也を眺めたり、世話を焼いたりしている。 「そろそろ店に来たらええのに」 という、父や太一の言葉には全く耳を貸さず、陽は貴也に首ったけなのだ。