「麻衣子、顔上げ。ちゃんと目ぇ見て話そ。」


腕にふれられて、やっと顔を上げる。涙でぐちゃぐちゃになっているから見られたくないけれど。


「なんで泣いてるん。俺何かした?せやったら言うてや、直すし。」


滲んで見えた拓馬の表情は初めてみる表情だった。悲しそうで不安げで。拓馬は何にも悪くないのにそう思わせてしまった。


「……あの人、お似合いに見えて。」

「あの人?さっきの?あれはただの同僚やで。最寄りが同じやったから飲み会から一緒に帰ってきただけやねん。」


予想通りの答え。そこは疑っていない。私が本当に伝えたいのはそうではなくて。


「なんやねん、そんなことで泣いとったん?びっくりするわ。」

「ううん、違う。」