「ちゅーなんてもう何千回もしとんねんから。」

「そうだけどっ、こうやって改められると緊張するでしょ!」

「目ぇつぶっとくから。ちょこっとちゅってしたらええねん。」


手首はがっしりと掴んだまま拓馬は目をつむって待っている。

キスにはとっくに慣れているけれど、それはあくまで「拓馬からしてくるキスに応じること」に慣れたということでしかない。自分からするのは別次元だ。

したくないんじゃないし、いつもリードしてもらっている負い目も多少ある。恋人関係を長続きさせるには、女の子から積極的に行動するのも大切だってことも知っている。

一度深呼吸をして、意を決して、顔を近付ける。


距離感が掴みにくくて、ふれるかふれないかの優しいキスになった。


「よう出来ました!」


無邪気な笑顔で私の頭をくしゃくしゃと撫でる。

付き合い初めは子ども扱いされているようで嫌だったけれど、「かわええなーと思うからすんねん。俺の愛情表現だと思って受け止めてやー。」という拓馬に押されているうちに気にならなくなった。何にでも慣れはあるのだ。