ことり公園。

 お母さんとお父さんは、先生の話を落ち着いた様子で聞き入れ、やがて先生がカーテンの向こうへと消え去ると、お母さんはわたしに向かって微笑んだ。


「生きててくれただけで十分よ。

 ……そうだ、小鳥遊(たかなし)くん、今日も来てくれたのよ。話も終わったし、連れてくるわね。」


 お母さんは変に明るくそう言うと、背中を向けて出ていってしまった。


 ……タカナシくん?


 知らない名前だったけれど、わたしの頭に、昨日の人が浮かんだ。


 あの暖かな優しい笑顔に、わたしの胸が何故かとくんと疼く。


 母が知っているくらいだから、結構深い関係だったのかもしれない。


 そんな風に考えていると、母が誰かを連れて戻ってきた。


 母の後ろに居たのは、わたしが読んだように、昨日の人だった。


 わたしは首だけを動かして、彼の鳶色の瞳を見つめる。


 その瞳は昨日と同じで、とても優しく、美しかった。


「……鈴原、あー、昨日ぶり。」


 タカナシくんはそれ以降口ごもると、困ったように首の後ろを摩りながら、えっと、と何度もひとり呟く。


「小鳥遊くん、……自己紹介でも、してあげて。」


 その様子を見兼ねてか、お母さんがタカナシくんの背中を叩いて言った。


「……うん、じゃあ、……俺、小鳥遊 つばさ。あとは、……別にないか。」


 小鳥遊 つばさ……。


 やっぱりわたしの記憶の中にその名前はなかった。


 それが少し、哀しく、後ろめたいような気がした。


 それでも何か応えないとと思って微かに微笑んで見せると、小鳥遊くんはほっとしたように困っていた表情を緩めた。