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「お願い!俺酔いやすいから、バスの席代わって!」


 目の前で手を合わせ、薄目を開けて俺を見つめるたかひろに、俺は冷ややかな視線を送った。


 俺の手元にあるバスの座席表には、担任の後ろの席、生徒で言うといちばん前の席に『小鳥遊』の文字があり、その隣に、『鈴原』の名前が並んでいる。


 たかひろの名前があるのは、それよりずっと後ろの方だった。


 キャンプ合宿初日の今日、行事委員の仕事で、うちのクラスのバスの前で指定の座席に生徒を促していると、最後に来たたかひろが突然言い出したのだ。


 ……こいつ、タイプじゃないと言われても、まだ鈴原のことを諦めてはいないらしい。


 「……ダメ?」


 何も言わない俺に、たかひろは不安げな瞳を向ける。


「正直、それだけの理由じゃないだろ。」


 見透かしたように言うと、たかひろは誤魔化すようにバレた?と軽く笑ったかと思うと、


「……まあ、わかってんなら尚更、代わってよ。俺、今回結構本気。」


 後半の言葉は、俺の目を見てハッキリと言った。