彼女……。


 "今も"そう言ってしまっていいのだろうか。


 口を開きかけたところで迷った俺の様子に、店員さんはまたくす、と笑った。


「デイジーの花言葉、知ってますか?」

「純潔、じゃないんですか、そこに書いてある……。」

「私、昔映画で見て知ったんですけどね、……」



 デイジーを手に、花屋を出て、朝に比べて随分優しくなった雨が傘にぽつぽつと当たる音を聞きながら、俺は頭の中で、昔鈴原が言っていた言葉を思い出していた。


 ――『雨、嫌いだな……。なんだか寂しい気持ちになっちゃうから。』


 それで確か、その次の日に、……俺が朝寝坊をして急いでいて、天気予報が夕方頃から雨だったにも関わらず、うっかり傘を忘れて、鈴原に入れてもらったっけ。


 ――『毎回こうなら、……わたし、雨だって好きになれるかも、なんて……。図々しいね。』


 そうはにかんだ彼女が、可愛くて、愛おしくて仕方がなかった。


 ……それは今だって、変わらない。


 だけど、俺がこの6日間、鈴原に会いに行けなかったことには、ちゃんとした理由があった。


 本当は、……俺は、鈴原に近付いてはいけない人間なのかもしれない。


 鈴原の苦しい過去の記憶には、俺の色が濃すぎて、……俺が関わることで、鈴原はその過去を思い出してしまうかもしれない。


 鈴原のあの怪我は、本当は事故なんかじゃない。


 彼女が眠っている間、ICUだったため両親の許可がないと入ることは出来ず、面会の許可はなんとか必死で頭を下げて許してもらったが、


 正直鈴原がああなった原因が俺なんじゃないかって、鈴原の父にはあまりいいように思われていなかった。