暖かな陽射しと、見知った公園のブランコ。


 そばにあった桜が散って、その上には沢山の花びらが乗っかっていた。


 傍らに佇むわたしと、それを払ってそこに座る、とても爽やかで幸せそうな笑顔を浮かべるブレザー姿の彼。


 栗色の柔らかそうな髪が、春風に乗ってゆらゆらと揺れた。


 わたしを優しく見つめる鳶色の瞳に、とくんと胸が高鳴る。


 わたしは、やっぱりこの人が好きだ。


 そう思った矢先だった。


「――、今すぐには結婚は出来ないから、……待ってて欲しいんだ。

 俺、ぜったい幸せにするから……。」


 嗚呼、わたしはなんて幸せなんだろう。


 うん、って、わたしも頷かなきゃ、わたしも、――くんが好きだって、待ってるって、言わなきゃ。


 出かけた言葉は、わたしの喉の奥に消えた。


 ―――ん、――くん。


 あれ、この人は、……誰?


「――。」


 応えたいのに、出てこないの。


 目の前のはにかんでいた笑顔が次第に哀しそうに歪んで、淡くとも綺麗だった世界はどんどん霞んで、暗い色に染まってゆく。


 待って、待って行かないで。


 お願い、――くん。


 どうして出てこないの、好きな気持ちは本物なのに。


「――くん!――!」


 必死で叫んでも届かなくて、幸せだったその世界は消え去り、ただ真っ暗な虚無の世界へと変わってしまった。