低くて恐ろしいその声は人々をゾッとさせる。

その声の持ち主は真っ黒だった。

髪もマントもフードも靴も、全て黒。

一ヶ所だけ、目が赤かった。

その黒はまるで灯台の白と反発するかのようだ。


〈ナティア=ブロドニスだな、と聞いているのだが〉

その人物──たぶん男、はそう言うと一歩中へ入る。


『えぇ、そうですわ。』

アレンの母、ナティアは部屋の中央の台座を守るようにその前に立った。

子供アレンも隠すように後ろに庇う。


『…ご用件は?』

その碧の瞳で睨みながら、ナティアは冷たく聞いた。

〈賢いお前ならわかるだろう〉

真っ黒な男はそう言うと薄ら笑いを浮かべた。

それを見た瞬間、背筋に寒気を感じる。


『…灯台は渡しませんわ。帰って下さい』

そんなナティアを見た男は目を細めた。

〈ほぅ。やはり、一筋縄ではいかんか。強いのだな。〉

男はそう言うとナティアの後ろに視線を移した。


〈我にはそれが必要。四つ全て、な。どうしても駄目だと言うのなら容赦はせんぞ。〉


男は視線をナティアに戻した。


〈灯台を明け渡せ。〉




『嫌です』


ナティアは即答した。


男は更に目を細めると、また一歩歩いた。


〈そうか、残念だ。お前はまた大切なものを失うことになるな。〉


『!』


男はナティアの後ろに隠れて顔の見えない子供アレンを見た。

なんとなく察知した子供アレンが身を強ばらせるのを感じて、ナティアは目を見開いた。


『…やめて!アレンだけは…!!』


さっきまでの強気な態度がまるで嘘だったかのように、ナティアは弱々しく懇願する。