「樹、お弁当箱また出し忘れたでしょ」
「…あ」
「気をつけてね」
「うん、ごめん」

食器についた泡を流していると、腰に手が回り、肩に樹のあごが乗った。
「…」
「…」
その間も洗い物はどんどん終わりへと近づく。

まだ慣れないこの空気。
戸惑いつつも洗い物を終わらせて
「わ、私お風呂入るね!」
と、樹の手から逃れようとしたものの…

「桜さっきもう入ったって言ってたよ」
「…そう、でした」

時計の音が大きく感じる。

「…桜、緊張してるね」
「そりゃ…」
「でも俺、何も言ってないよ?」
「へ…」
「抱きついただけで、何も」

確かにそうだった。
顔が赤くなるのを感じ、思わず覆った。

「はは、桜かわいい」
「うっさいバカ樹…!」

首筋に顔をうずめられ、そのくすぐったさに思わず身をよじる。

「…寝室、行こ」

樹の提案を断ることなんてできなかった。