「嘘だぁ!」
「ほーんと。ほら、お昼休みそろそろ終わるからお弁当箱片付けなさい」
「はーい…」

雪は渋々と動き出す。
私もお弁当箱の中にいるおかずたちを口へ運ぶことに専念しはじめる。
その時だった。

「美味しそうなものを食べてるじゃないか!」

廊下側の窓から顔を覗かせたのは

「……西牟田先輩」
「やあ桜さん。そのおかず、僕にも分けてくれないかな?」
「ご自分のお弁当はどうされたんですか?」
「もう食べたよ。けどな、高校生男子となるとお腹がいっぱいになるのはなかなか難しくてね」

西牟田先輩はにっこりと笑顔を浮かべる。
その笑顔に、先ほどから集まり出していた女子が小さく騒いだ。

「そうですか」
「そうなんだ、だからくれないかい?」
「お腹が空いているんですよね?」
「ああ」

私は先輩から顔をそらし、教室にいる皆に聞こえるように

「西牟田先輩がお腹空かせてるからお弁当余ってる子いたらわけてあげてー!」

と呼びかけた。
その後すぐに、驚いた顔をしている西牟田先輩の元に大量の女子が押し寄せる。

「先輩これどうぞ!」
「余っているので…!!!」
「い、いや僕は…」

ちらりと私の顔を見る西牟田先輩に
「よかったですね、お腹いっぱいになれますよ」
にっこり笑顔をむけてそう言ってやった。