「あ…嫌とかじゃないから……全然」
大丈夫、と言おうとしたけど小さい声でゴニョゴニョ言ったから聞こえなかったかもしれない。
男の子には遥しか呼ばれたことのない名前。
それと同時に、美弥ちゃんと呼んでいた幼い頃の遥を思い出した。
「美弥って名前、かわいいよね」
「え!そ、そう?」
「うん。女の子っぽくて似合ってるし」
「いやいや全く。全然。女子力ほんと低いよ私…」
「そう?」
机に頬杖をついて、私を下から見上げるようにしてそう言う榛名くんの右手が、私の髪に触れた。
「髪染めてなくてサラサラだし」
ぎゃー!
びっくりしすぎて息を止める。
なんか、榛名くんの手に鼻息がかかりそうで…!
「見た目通り全然痛んでないね。気持ちー」
フニフニと髪の毛を触られる。
「は、榛名くん…」
「ん?」
「そ、そろそろ心臓が家出しそうなんですが……」
見上げながら私の髪を触る榛名くんが尋常じゃないほどカッコイイ。
夕日に照らされてるからか、色っぽさもあって、なんかやばい。
とりあえずやばい。
免疫力のない私にはハードルが高すぎるよ……
「……ハハ、おもしろいこと言うね」
だってあの有名な眠り王子ですよ、あなた。
そりゃドキドキするよ。
ちょっとだけ拗ねたような目を向けた私に、榛名くんはニヤリと笑った。
「今日のお返し」
え?とポカンとしたのは一瞬。
朝の出来事を思い出して、あっと声を上げてしまった。
