ここでキスして。








もう少しで家に着くという所で、見覚えのある黒髪が前方を歩いているのに気が付いた。






「………げ、」





思わず近くの電柱に隠れる。





間違いない。遥だ。

考え事をしていたせいで、こんな距離になるまで気がつかなかった。




「…最悪だ…」




どうしよう。
このまま電柱に隠れてるのは怪しいし、まだ家まで距離がある。



なんとか見つからないように、足音を消しながら後ろを歩けば大丈夫かな…



振り向きませんように。
振り向きませんように。






悔しいけど均等のとれたスタイルのいい後ろ姿と距離が縮まらないように、ソロソロと歩く。





遥が建物の角を曲がって姿が見えなくなると、どっと変な汗が出た。





小さく深呼吸して、私も角を曲がる。










「おいストーカー」

「ひゃ!」




曲がった瞬間、大きな何かにぶつかった。


その反動で少しだけよろける。





「いたた…」




おでこをさすりながら顔を上げると、不機嫌そうな遙が私を見下ろしていた。