ひとつ屋根の下で暮らしていても、私にはまだまだ知らない湊がいて。


いつか、どんな顔も見せてくれる、そんな日が来るのだろうか。


箸を握りしめ、そんなことを考えこんでいた時。


「……亜瑚」


頭上から湊の声が降ってきて、顔をあげると。

――ふにゅっ。

湊が片手で、私の両頬を指でつまんだ。


「ひょ、ひょっほ! はひふんほ!」


突然レディーのほっぺを潰すなんて、どういうつもり!?


私がぷんすか怒っていると、いつの間にか制服に着替えていた湊が真面目な顔をして言った。


「あんたは、俺の隣でへらへら笑ってればいいんだよ」


「ふぇ?」


「じゃ、俺行くから。また学校で」


そう言って湊は私のほっぺから手を離すと、家を出て行った。


「……湊……」


へらへら、か。


悩んでいたいろいろなことが、湊のたった一言で浄化されてしまった。

やっぱり湊ってすごい。


だんだん、私の中で湊が占める割合が大きくなっている気がする。


湊の中でも、同じくらい私が占める割合が大きくなってたらいいな……。

……なんてね。