「それにしても、湊が彼女いなかったなんてびっくり。
モテモテだから彼女たくさんいたかと思ってた」


すると、湊がエプロンをたたむ手を止めた。

そして目を伏せ、小さな声で呟く。


「俺はだれのことも好きになれないから」


「え……?」


「早く食べないと遅刻するよ」


私が口を開く前に、湊がリビングを出て行った。


「湊……」


私の声はだれに届くこともなく、リビングの白い壁に吸い込まれていく。


湊は時々、すごく暗い目をする。

悲しくて、辛くて、寂しくて……いろんな色が混ざり合った、そんな瞳。


その表情を前にすると、根拠はないけど湊が私の手の届かないところに行ってしまうのではないかという気持ちになる。