食器を洗い終えて、リビングに戻ると、亜瑚は座ったまま、顔だけテーブルに突っ伏して寝ていた。


さっきまであんなにピーピー騒いでたのに、もう寝たのか。


横から覗き込むと、脳天気で幸せそうな寝顔をしている。


俺の手はいつの間にか、亜瑚の頬に伸びていた。

だけど触れる直前ハッとして、温もりを覚えないまま拳を握りしめる。


俺は、こいつを、愛することはできない。

きっと、これからも。


さっきの亜瑚の言葉が、頭の中でこだまする。

生まれてきてくれてありがとう、か……。


まだ胸がざわついている。

また“あのこと”を思い出している。


俺はやっぱりまだ過去に縛られていて、きっとこれからも縛られていくのだろう。

だから、俺は誰のことも愛せないんだ。

俺は、生まれてきてはいけなかった人間なのだ。


なにも知らずすやすや眠る亜瑚に視線を落としたまま、俺はぎゅっと握りしめた拳を解けずにいた。