「如月くんこそ、気をつけてよね!
バレるようなマネしないでね!」
イライラの勢いでご飯をたいらげる。
「そんなに掻き込むと太るよ」
やけに涼やかな声に、さらに神経が逆撫でされる。
こんなやつが旦那なんて……やっぱり嫌!
「ご馳走さま!」
派手な音を立てて椅子から立ち上がり、食べ終わった食器を洗いに、キッチンに行く。
「あ。あと、」
背後で如月くんの声がする。
また、嫌味を言うつもりね!
ふんっ! 誰が聞く耳持つもんですか!
――私は気づかなかった。如月くんの腕が、背後から伸びていることに。
気づいた時には遅かった。
いつの間にか私の体は、如月くんとシンクに挟まれていた。
「え、きさらぎく……」
口を挟む間もなく、如月くんの顔が私の顔の真横に来て──。
「あんたさ、嫁なんだから夫婦でいる時くらい湊って呼べよ。
これ旦那様命令な、亜瑚?」
甘い吐息が耳に、耳に、耳に……。
「……っきゃー!!」
引越し早々、マンションには私の叫び声が響き渡ったのだった。


