すると、そんな私に気づいた如月くんが柔らかい笑顔を消し、むすっと眉間にしわを寄せた。
「ニヤニヤしてんじゃねぇよ」
「ニヤニヤしてないし!」
「ったく、あんたといると、なんか調子狂う……」
「ん? なにか言った?」
「なんでもない」
顔をそらすようにそう言いながら、如月くんはリビングの手前にあるひとつの部屋の前で立ち止まった。
「この部屋、あんたの好きにしていいから」
「えっ!? でも……」
たしか1LDKで、リビング以外の部屋はここしかないって言ってたはず──。
「元々あんまり使ってなかったし。
女はいろいろ置くもんとかあるんじゃねぇの?」
あんまり使ってなかったと如月くんは言うけど、そんなはずはない。
だって、この部屋以外に私物を広げられそうな部屋はない。
きっと、昨日まで当たり前に使っていた部屋を私に譲ってくれたんだ──。


