他愛もない会話をしていると、いつの間にか私たちは、教室がある階に到着していた。
つまり、ここからまた他人のフリを始めなきゃいけないということで。
「湊、先行っていいよ」
「ん。じゃ、俺全部持ってくから」
湊は荷物を全部受け取ると、私に小さく笑いかけて、歩き出した。
遠ざかる湊の背中を見つめていると、愛おしさが込み上げてくる。
大きな背中も、すらっとした手足も、柔らかいミルクティー色の髪も、全部好き……。
――その時、ふと湊が立ち止まった。そして前を向いたまま大きな声で言った。
「エビフライ!」
「えっ?」
それだけ言って、何事もなかったように歩き出す湊。
もしかして、晩御飯のリクエスト……?
湊さん……、あのねぇ、すごく目立ってるから!
いきなり、クールなイケメンが『エビフライ!』なんて大声で言うものだから、廊下にいた生徒が何事かと驚いている。
そんな光景を見ていたら、なんだか笑いが込み上げてきた。
私だけに向けた言葉。私にしかわからない意味。
くすぐったいような嬉しさでいっぱいになって、心の中で『了解!』と答えた。


