『ねぇ、今時間ある?』


黙っていると、抑えたトーンで祐馬くんがそう聞いてきた。


「今? あるけど……」


『なら良かった。亜瑚ちゃんに話したいことがあるからさ』


「話したいこと……?」


『うん。夫婦の問題に部外者の俺が入ってくのもどうかと思うんだけど、ふたりには幸せになってほしいから話すよ。湊の過去のこと』


『湊の過去』

その言葉に無性に胸がざわついた。


湊のあの悲しい瞳には、なにか理由がある。

そんな気がしていたから。


『もしかしたら、亜瑚ちゃんには辛い話かもしれない。
……それでも、聞いてくれるかな』


正直、怖い。

でも、聞かなきゃいけない気がするの。


私は心許なかった右手を、決心を固めるように胸の前で握りしめた。


「……うん、聞くよ……。聞かせて」


そう言った自分の声は、思ったよりもたしかな強い声音で響いた。


『よし、わかった。じゃ、話すね』


そして、祐馬くんがゆっくりと湊の過去の物語を話し出した。