「でもな、この間、父さんの高校時代の先輩にばったり出くわしたんだ。
その先輩は同業者で大きい製鉄工場の社長なんだよ」
「うん」
「それで、先輩に今の工場の現状を伝えたら、資金援助をしてくれることになったんだ」
えっ!? 資金援助ってことは……。
「それじゃあ、倒産しなくてもすむってこと!?」
一筋の光に、ぱっと明かりが点いたように、心が軽くなる。
でも、なぜかふたりの表情はどんよりと曇ったまま一向に晴れない。
「あぁ……。でもな、それには条件があるんだよ」
「条件?」
眉間にしわを寄せ険しい表情のお父さんが、低く押し込めた声で答える。
「亜瑚をその社長の息子に嫁がせること」
「…………えっ? え? えぇぇぇ〜!?」
一瞬、事態を把握するのに時間を要したあと。
自分でも聞いたことないほどの大きな声が、工場に響き渡った。


