「み、湊、だよ……」


心臓が痛いくらい鳴っているのを気づかれないように目をそらして私がそう答えると、湊は顔を離して満足そうに笑った。


「そ。なんか、それが聞きたくなって」


「へ……?」


「じゃあまたな、“来栖さん”」


そして湊は壁から手を離し、私の頭をぽんぽんと軽く叩くと、歩いて行ってしまった。


私はその後ろ姿を見ながら、動くこともできず、その場に立ち尽くしていた。


な、なんなのよ、あいつ。

いきなり連れ出したかと思ったら、あんなこと……。


あぁ、痛い。心臓が痛い。

あぁ、熱い。体中が熱い。


この気持ちは、一体なに……?