そんなある日。 おそらく彼の来店が十回を越えた頃ではなかっただろうか。 閉店間際にやってきた。いつもよりうんと遅い時間だ。 「なんでもいい、とりあえず何か」 息を飲んだ。 「…どうしたの、その顔」 彼の顔は酷かった。 口元は切れ、目蓋は腫れ、頬には幾つかの痣。 整っている顔は、今は目も当てられない。 「ほっとけ」 いつになく冷たい。 「いいから、酒。あと灰皿」 彼にこんな態度をとられるのは初めてのことで、リキュールの瓶を握る手が僅かに震える。