「仕事?」


陸さんの着信音を聞いて、隣の部屋からお姉ちゃんが顔を出した。


「うん、いってきます。終わったら電話するから!」


陸さんは急ぎ足で階段を駆け下りながら、お姉ちゃんに言った。


そう、陸さんはお姉ちゃんの彼氏だった。


学生時代、成績優秀だった陸さんに両親が頼み、あたしはただお姉ちゃんの妹という特典のようなもので、陸さんに家庭教師をしてもらっていた。


陸さんにとって、特別な存在はお姉ちゃんであって、あたしはただのおまけにすぎなかった。


だか、そんな事は百も承知で、あたしの一方通行の想いだけがひたすら膨らみ続けていたのだった。