時間差ラブレター

「ちょっと、あれ、三年の志摩じゃない!」
「う、うん、なんか目が合っちゃって……」
「見ちゃダメよ、あの人、休み中にまた問題起こしたらしいし、何されるか分からないでしょ!」


 りっちゃんにひそひそと小声で注意され、私は反射的に頷いた。

 私たちが通う学校は、県内でも有数のマンモス校だ。普通科の他に特進科や英語科、工業科や商業科等全部で八の学科と十二のコースがある。敷地も広く部活動にも力を入れている、地元ではちょっとした有名校だったりする。

 その学校の中でも特に有名なのが、工業科三年生の志摩虎太郎(しまこたろう)先輩。

 工業科切っての天才で、色んなコンテストで入賞しては朝礼で表彰台に上っている。でも、それと同じくらい、素行の悪さで目立っていた。

 曰わく、十六股しているとか、暴走族の頭だとか、ヤクザの親戚がいるとか、何組の誰それが目を付けられてボコボコにされたとか、そんな怖い噂が絶えない人。

 問題を起こしても、それ以上に優秀だから学校も処分出来ないとか嘘か本当か分からない話もある。私はあまり噂に詳しくない。りっちゃんは学校の事情に疎い私のことを心配してくれているんだろう。りっちゃんの注意に素直に従って、私はバッグに伸ばしていた手を止めてふうと短く溜め息を吐いた。その後すぐに電車が学校近くの駅に止まって、私たちは電車から降りて学校に向かった。

 なんとなく、さっきの出来事が頭に残って仕方ないので、りっちゃんにバレないように周りを伺ってみる。目の届く範囲にたんぽぽ色は見えなくて、なんだか少しだけ残念に思えた。