車を走らせながら、そんな当時の事を思い返していた。

ハンドルを切る手の甲に涙が落ちる。

我慢出来なかった自分を責めていた。

昨夜の一件の後、晴久は手のひらを返したように博愛に優しく接した。

博愛がそれに答える事は二度と無かったけれど。

背中を向けて眠った。

顔を見たら決断できそうに無かったからだ。

何をされても、何を言われても嫌いになれない自分がいる事に気付いていたからだ。

顔を見たらおしまい…




そして現在に至るのだ。

実家の玄関をくぐると、台所から母親の千夏歩(ちかほ)が飛び出してきた。

昨日の夜メールを入れてあったからだろう。

心配そうな顔で美嘉を抱き上げた。

実家の住み慣れた自室に戻り、晴久に電話をかけた。


「ハル、別れて」


一点張りだった。

それ以外の言葉が無かった。