「今はできないって意味よね?」
眉をひそめて、もう少しで泣き出してしまいそうな表情をして、小さな声で聞いてくる恵美に俺は、一言も返すことができなかった。
『いや、違う。君とは結婚できない』
とは言えなかった。
二人の間には、これまでに感じたことのない重い雰囲気が覆っていた。
俺の頭の中は、いろいろな言葉を作り出そうとするが、全く意味のある言葉を作ることはできなかった。
何も言い出さない俺に痺れを切らした恵美は、呟くように言った。
「カズくん、疲れてるんだよね・・・今日は帰ろう」
目に涙を浮かべて、そう言う彼女に俺は何も言うことができなかった。
なぜ、俺を責めない。
なぜ、話を聞かない。
なぜ、ひっぱたかない。
ただ一つわかることは、今日俺は二人の女性を傷つけてしまったことだ・・・。
はっきりと言えない自分が情けなかった。
夜になると寒いくらいになっている外の空気を大きく吸って、すっきりしたかったが、うまく吸い込むことができなかった。

