スタートライン~私と先生と彼~【完結】

俺は息を飲んで、二人の会話を耳を澄まして聞こうとしていた。

俺の鼓動は早まり、嫌な汗が湧き出てくるのがわかった。

「俺、ずっと原田さんのことが好きやったんや。

もしよかったら、付き合って欲しい」


やっぱりか。

俺は、目を閉じ顔を眉間に皺を寄せ、『落ち着け』と自分に言い聞かせていた。

原田は黙ってる。


なんて答えるんだ??

しばらくの沈黙の後、原田の声が聞こえた。

それは、動揺しているわけでも、嬉しそうでも、嫌そうでもなかった。


「ごめんなさい。
今は、受験に集中したいから・・・」


申し訳なさそうな表情から繰り出された言葉は、俺が望んでいたものだった。


よっしゃ――っ!

彼女の言葉に、自分が教師ということも忘れて、俺は小さくガッツポーズを決めた。


「・・・そっかぁ。じゃぁ、受験が終わったら・・・考えてくれる?」


奥村はそう言ったが、反応のない原田に痺れを切らしたのか

「・・・考えておいてね」

と言い、去った。

なんだあいつ。

空気読めよ。

しつこいんだよ!


あぁ・・・こんなこと思って、俺って本当に教師か?


自問自答したが、今は男の部分が大部分を占めているようで、答えを出そうとはしなかった。


「はぁ〜」

大きくため息をついた彼女の横顔は、なぜか寂しそうだったが、その美しさに吸い込まれそうな感覚に陥った。

・・・綺麗だ。告白もされるよな・・・。


ぼんやりしていたら、パンの入った紙袋を落としてしまい、慌てて拾おうとしたら、驚いた顔をし、こちらを向いた原田と目が合ってしまった。


しまった!盗み聞きしてたのバレバレじゃないか!

でも、目が合ってしまったからには、もう隠れてはいられない。