スタートライン~私と先生と彼~【完結】

夕方、俺が帰る時、原田も下足場から出て来た。


3年生は受験勉強もしないといけないので、練習は午前中の数時間だけらしいが・・・。


「原田どうした?練習は午前中だけじゃないのか?忘れ物か?」


一人の生徒に話し掛けるのと同じように話し掛ける。

「いえ、図書室で自習していました。」

原田はいつもの笑顔で、丁寧に返事をしてくれた。


「そっかぁ、頑張ってるな。」

その時、この前の原田の様子が頭に浮かんだ。

「原田、元気か?」


質問が意味不明過ぎる・・・。もっと、気の利いたことは言えないんだろうか・・・俺は。


「はい!めっちゃ元気です!先生、この前はありがとうございました」


原田は俺の質問の意図することを汲み取ってくれたらしく、笑顔で言ってくれた。


思わずその笑顔に見とれてしまった・・・。


俺の顔はにやけてしまいそうな顔を必死に堪えていたに。うまく隠せただろうか・・・・・。


「そっかぁ、よかった。」


我に返り冷静さを取り繕って答えた。


「先生、さようなら。」


俺は実家から車で通勤している。一瞬、原田を送って行くという選択肢が頭に浮かんだが、教師として相応しくないと思い、不正解とした。


「あぁ、気をつけてな」

少しだけ涼しく感じることができるようになった風に、原田の肩まで伸びた髪と短いスカートが揺れる。


『もっと一緒にいたい』


掻き消さなくてはいけない欲望は、風と一緒に消えていった。

「せんせ〜。車で送ってってよ〜。」

部活帰りの女子生徒達が馴れ馴れしく走ってくる。


「しょーもないこと言っていないで早く帰れ!」

『お前らじゃないんだよ!』


俺の中の悪魔が騒ぐ。