でも川田先生は違った。
『すまん。俺が妙なプレッシャーをかけてしまったからだな。
斎藤、お前はお前らしくマイペースでいけばいいんだ。
その先に、きっと答えがあるから。
お前が人一倍努力してるのは知ってるから、『頑張れ』とはこれ以上言わない。
お前らしく生きるんだ』
と頭を下げてくれた。
それは、先生自身の成績の為じゃなく、俺の為に言ってくれたんだと感じた。
俺は川田先生のお陰で、肩の荷がおりたように軽い気持ちになった。
それから俺は、成績を持ち直し、京府大学に合格したんだ。
俺の昔話を原田は頷きながら聞いてくれている。原田の表情を見る余裕はとてもなかったが、一瞬見た表情は穏やかなものだった。
俺はそれ以上、気の利いたアドバイスなんてできるほど経験も積んでいない。
「先生、ありがとうございました。
私の気持ちも楽になりました。川田先生って、昔からいい先生だったんですね」
原田は、俺が話す前とは全く違う明るい表情で言ってくれたことに俺は安心した。
『いい先生』
俺も言われたい。
言われるようになりたい。
「こんな話しかできない俺は、まだまだだな」
職員室の汚れた天井を見上げて、呟いた。
「そんなことないですよ!先生も素敵です!」
そう言った瞬間、彼女は顔を真っ赤させて、俯いてしまった。
そして一瞬だけ俺の方を見て、「ありがとうございました。失礼しました」とだけ残して去ってしまった。
『素敵』って言ったよな。
女子高生の言葉にドキドキしている自分が恥ずかしかった。

