「夏奈子! 何処に居るんだ!! 場所を言うんだ、すぐ行くから……。だから、だから変なことを考えるのはヤメろ……夏奈子、返事をしろ、夏奈子!!!」


だけど俺の声は彼女に届かなかった。通話ボタンが押されたままだったのか、雨の音だけが聞こえる。


「夏奈子……夏奈子! 頼むから、頼むから死なないでくれー!夏奈子ー!」




次の瞬間……。
俺の耳に入ってきた車のスリップ音とブレーキを掛ける音……。
ざわつくような人の声だった……。
俺の手が震え出す。


妻が……妻が……自殺……


それがずっと頭を巡った。
もう、何もかもを失ったのだと絶望感に襲われた。通り過ぎる人が見るのも関係なく俺は街中で一人、泣き崩れた。


「夏奈子……夏奈子ー!!」


俺の声は雨音に掻き消される



涙なのか、雨なのかわからないほど顔は濡れて居た。雨の中で……俺は思った。このまま……自殺しようと……。