妻が居ない人生なんか、死と同じ。意味がないんだ、妻が居ないのなら……。


俺はずっしりと重い体を上げ、歩いた。会社ではなく……最寄りの駅に向かう。電車なら一瞬で死ねると思った。




「夏奈子……夏奈子、今逝くから……待っててくれな……夏奈子……」



ジメジメとした空気がまとわり付く。俺の足は踏切の前で止まった。安全バーが降りる……俺はそれを跨いだ。


その時……。
携帯が鳴る。夏奈子の文字が浮かぶ。


「…夏奈子! 夏奈子無事なのか夏奈子!何処に居るんだ!」

「ご主人様ですね? 奥様は現在意識不明の重体です。○○病院へ運びますので、そちらに来て頂けますか? 詳しい話は病院でお話したいと思いますので」


俺はすぐ電話を切り踏切待ちをしていたタクシーに無理矢理乗り込む。そして病院へ向かうよう言い付けた。

病院へ向かう間、俺は鞄につけられた御守りを握りしめていた。夏奈子が安全に会社に行けるようにと作ってくれた手作りのものだ。
袋の中には手紙が入っていた。



『毎日お仕事お疲れ様。大好きだよ』


夏奈子、無事で居てくれ……。