私は唐突にくるりと振り返った。

 いきなり足を止めたものだから、うしろを付いてきていた3人は次々に衝突する。きゃあ、とか、ちょっと!とか声が上がる中、私は珍しく笑顔を見せて言った。

「ね、あなた達。悪口ばかり言っていると顔も醜くなるのは知っている?あなた達のさっきの顔、男性社員に見せてあげたいくらいだわ。折角若いのに、残念なことね」

 ハッと息をのむ音。数山さんはその完璧な化粧をした目を大きく開けて私を凝視している。そして、他の二人も。

「私のプライベートがこの会社でのあなた達の仕事に影響があるとは思えないから、答える必要はないわよね?」

 笑顔はキープ。ひさびさに息継ぎも忘れて沢山喋ったからか、ともすれば舌を噛みそうだった。何か言いそうに口を開きかける一人を視線で牽制した。まだ、喋らせないわよ。

「申し訳ないけれど、私をサンドバックにするのはお勧めしないわ。ご存知だと思うけれど、私はここの総務のお局よ。あなた達――――――――」

 声を小さくして、順番に指差して回る。まだまだ笑顔はキープだ。

「我が社との次の更新は、ないと思っていて下さいね。では、お疲れ様でした」

 え、あの、そう慌てた声が聞こえたけれど、私は背中を向けていた。カツカツと音を響かせて歩く。

「亀山さん!」

 あはははは、遅い遅い。あっさりと角を曲がって彼女達の前から姿を消し、階段を地下へ降りながらあっかんべーをする。実際のところ、たかが総務の古参であるだけの私に彼女達の更新を決める権限などないのだが、「ついうっかりと」報告書を上に回すのを忘れることは出来る。それに、判子を足りないようにすることも。

「あーあ、無駄な体力使っちゃった」