カメカミ幸福論



「亀山さん、お疲れ様です」

「・・・どうも」

 抑揚もつけずにそう返す。目はじっと階数ボタンを見ていた。

 数山さんと他の派遣女子2名がふふふと笑うのが聞こえる。その場の空気が一気にねっとりしたものに変わったのを感じた。

「亀山さん、お盆休みの間に婚活でもされたんですかあ?何だかいきなりテキパキと働きだしたと噂ですし、お綺麗になったみたい。ねえ、亀山さん綺麗になってるよね?」

 数山さんがそう言い、他の二人が口々に返す。

「そうそう。でもまあ、前が、ねえ・・・」

「新しい鏡でも買われたのかなあって話してたんです~」

 舌打をしそうになったけれど、ぐっと耐える。ここでこの子達の相手をしたって、私にはメリットなどないのだから。・・・というか、ああ、面倒臭い。

 うんざりしている私には構わずに、女子数名はお喋りを止めない。たまにうふふという笑い声つきで、話しかけてくる。

「ねえ亀山さんて、営業1課の小暮課長と同期って本当ですかあ?最近課長と総務の山本さんと3人で一緒にいるのをよく見ますけど、山本さんと小暮課長が付き合ってるって噂、知ってます?」

 返事をしないでいたら、ねえ、と服を引っ張られた。

 私はノロノロと動くエレベーターに呪いをかけながら、また無愛想に返す。

「さあ。本人達に聞いてみて」