カメカミ幸福論



 まだ驚いたままの事務員数名と美紀ちゃんを残して、私は給湯室へ戻る。そういえば、お茶を淹れてあげたことってなかったな~、と思いながら。本当に人との繋がりのない、いるかいないか判らない人間だったのだ。

 お盆をしまってシンクの掃除を簡単に済ませる。それからもうここにいる理由がないわ~と残念に思いつつ事務所に戻ろうとドアを開けると、帰宅前の派遣社員さんの団体と鉢合わせしてしまった。

「あ」

 口の中でつい呟く。

 エレベーターを開けた所で、その中身をみて「閉」ボタンを押しそうになった。いや、実際のところ反射的に押したのだけれど、それより相手の「開」ボタンを押すのが早かったのだ。

 うわ・・・。私はそう思ったし、きっと正直に表情にも表れていたはずだ。反対にあちらの皆さん、つまり派遣社員の3名は意地悪そうな顔をして笑った。その中にはやっと名前を覚えた、あのアジアンビューティーの数山さんもいる。

 今までの廊下での数々の嫌味や食堂でのガン飛ばし。面倒臭いから相手にしなかったけれど、ただ今私の機嫌は低下中なのでスルー出来るか自信ないな~、そんなことを思いながらとりあえず乗る。

 まあ2階分移動するだけだし、そう思ったからだった。

 だけど相手は反応が早かった。

 エレベーターの中は自分達と役立たずのお局だけ、それにこいつは言い返しもしないし、と思ったのかは知らないが、帰社する時間になっているとは思えないくらい化粧崩れのない顔で、数山さんは私を露骨にジロジロと見て言った。