カメカミ幸福論



 一人の時間に思わずダンに話しかけていて、ああそうだった、ヤツは消えてるんだわ、と気がついた時のバツの悪さ。それが朝から何回もあって、さすがに自分にムカついていたのだ。

 今は午後4時で、これから会議に出る課長の為の資料を整えている事務の後輩達にお茶を入れようとしたのだった。

 何かしていないとすぐにダンのことを考えてしまって、それが鬱陶しかったのだ。だから本日のやるべきことを終えてしまっていた私は、自発的に席を立ちお茶の準備をしにきていた。

 完璧なお茶を淹れるのよ、私!そう思って手元に集中する。熱すぎても温すぎてもいけない。お茶の葉はこのくらいで、それから―――――――――

 会議室へそれを運んだ時、指揮している美紀ちゃん始め、後輩達の反応が顕著だった。

「ええ!?お、お茶を淹れてくださったんですか?」

 まず美紀ちゃんが、メガネのフレームの向こうで目を丸くしてこう叫んだ。他の後輩達も口をあけて私をじっとみている。

 え、まさか!?そんな空気が部屋の中を漂っていた。きっと、仕事もろくにしなかったお局が仕事をしだしたと思ったら、今度は後輩にお茶を淹れてきただとっ!?なーんて思ってるんだろう。・・・ま、そりゃ驚くか。

 私は無愛想なままで、ちっとも微笑まないでお茶を配る。

「手が空いてたの。皆、夏だからって冷たいものばかりはダメよ」

「あ・・・頂きます」

「ありがとうございます」

「すみません、亀山さん」