カメカミ幸福論





 認めるのが大変癪だったけれど、自分の心の中、それも真ん中あたりに占めている、このモヤモヤする気持ち悪い感情の正体は、喪失感だ。



 私は機嫌悪く給湯室で急須のお湯を流しに捨てる。

「あっつ!」

 乱暴にしたせいで跳ねた熱湯に指をあて、飛び上がった。

 ・・・もう!


 ダンと名乗る神が現れてから、ヤツはいつでも私につきまとい、色んな言葉をかけては行動を共にした。それはたった2ヶ月ちょっとの話だったけれど、それにやはり慣れてしまっていたらしい私は、一人になった時につい話し掛けているのだ。

 ダンに。

 ねえ、って。

 これってさ、とか、暑いわね、とか。

 そこでいつも返ってきていた、声は清涼感があっていいのにチャラチャラした軽い物言いが、今は聞こえない。

『何だ~、ムツミ』

 って、あの声が。

『いい加減にしろよ~』

 って、あの呆れた言い方が。

 胸の辺りがざわざわする。