「セナ、コーヒーいれたけどー」



ノックはしたものの

返事がないのはいつもの事。



「はいるよー?」

セナの世界にはいってしまうと、何も聞こえないし周りだって見えなくなりがちだ。



ヘッドホンをし、パソコンの置かれた机でじっと作業しているセナの頭に今、どれぐらいの音がぐるぐると広がっているのだろうか。



セナの仕事は曲を作ること。

歌手とかに曲を提供したりしてるらしい。



一緒に外出しているときに目や耳にする曲たちを俺の作った曲だって言ってるときには驚いた。



「俺、天才だから」



彼がよく口にするそれは

嘘なんかじゃなくて

多くの人々が彼の才能に惹かれてる。



―すごいな、セナは。



仕事の邪魔にならないように少し離れたテーブルにコーヒーを置いて部屋を出る。



静かに閉じた扉。

朝食の後片付けをしながら考える。



―セナに比べて、わたしには、何にもない・・・