その後、智史のことを聞いてくる育美先輩をごまかすのに苦労したが、落ち着いたら、だんだん腹が立ってきた。


彼女がいるのに、私に気を持たせるようなことを言っておいて、なんて無責任なやつなんだろう。


智史に直接文句を言ってやりたい気持ちが膨らんでいって、午後の仕事は手につかなかった。






仕事が終わると、私の足は、大柴法律事務所に向かっていた。智史に直接会って優花とのことを問いただす為だ。


事務所のあるビルの前に着くと、見覚えのある人がビルに入って行くのが見えた。


大柴だった。


誰かと話しながら歩いているみたいだが、話し相手は大柴の体で隠れていてよく見えない。


足早に歩いて行って、大柴たちに追いつこうとしたら、大柴の話し相手の後ろ姿が見えた。


黒い髪が印象的なあの人は、優花!?


なんで、大柴さんと一緒にいるの!?


立ち止まって2人の姿を見つめていると、2人はちょうどきていたエレベーターに乗って行ってしまった。


「なんで、こんなところにいるの?」


後ろから、声をかけてきたのは、智史だった。


「えっ、智史?」


「そうだよ」


そう言うと、智史は、にっこりと笑う。


やっぱり笑うと幼く見えるなと思っていると、


「智史って初めて呼んでくれたね。嬉しいよ。もしかしたら、俺に会いに来てくれたの?」