次の日は、日曜日だった。急だったが、引っ越し業者を見つけることができた。荷物を運んでいる時、もうこの家へ戻ってこれないかも知れないと思うと涙が出そうになった。


もっと違うかたちで家を出て行きたかった。でも、今の自分はこうするしかない。そう自分に言い聞かせて、一歩前に進んだ。






智史の住んでいる部屋はマンションの最上階にあった。改めてマンションを見ると白と黒で配色され、落ち着いた雰囲気だ。しかし、高級感があり、気後れしてしまう。


オートロックを解除してもらうと、部屋へ向かった。途中、長い黒髪が印象的な女とすれ違う。


部屋の前まできて、インターホンを鳴らすと、どうぞと返事が返ってくる。扉を開くと、智史がこっちに歩いてきていた。

「愛実、お帰り。もう荷物届いてるよ」


智史は、まるで恋人のように言う。一瞬、自分たちが恋人じゃないかと思ってしまう。だが、ここに住むのも、新しい部屋が見つかるまでの間だけだ。そう、これはただの同居生活。智史だって、人助けと言ってたし、最初から暇つぶしくらいにしか思っていないだろう。私から連絡があって嬉しいと言ったのも、誘惑してくるのも、きっと嘘だ。