彼とほんとの私

返事を待たずに、彼は私の唇にキスをした。


私は両手で彼の胸を押したけど、びくともしない。病室にはカーテンの向こうに患者さんがいるのに…。


彼は気にする様子もなく、だんだんと深くキスをしていく。


もう、だめ。そう思った瞬間、彼の唇が離れた。

「……なにするのよ…」


頭の奥がしびれる感覚になりながら言った。


「残念だけど、もう時間切れだ。きみの今の顔いいね」


そう言って微笑む。


「時間切れって…今の顔って…」


ぷっくりとした唇には、キスの余韻が残っている。


短い時間だったが、私の女を呼び覚ますのには充分なキスだった。


「お気に召した?」


彼は、首を傾けて言う。かわいい仕草だが、髪が少し乱れいて、眼差しは野性的だ。年下だけれど、成熟した男だと感じさせられた。


「…としー。さとしーどこにいるのー?」


どこからか、女の子の声がする。すると彼は、私の頬にキスをすると、


「きみのこと忘れられそうにないな」


そう言って、病室を後にした。