日本人は、
 本当に儚いものが好きだと思う。

 だって私はきっと、深く酔ってしまっている。今もなお、彼しか想えない自分に対して。涙を流す私に同情して。

 悲恋を儚いものとして捉える私は、私自身に酔いしれる。

 もしも誰かが、これ以上 彼に縋るのは滑稽だとでも言ってくれたら、私は楽になれるはずなのに。

 私にかけられる言葉は“可哀想”だけ。

 だから私は、自身の失恋に便乗して今日も泣き崩れる。美しい絵になるよう、桜の樹の下で。


(……あいつの、ばかやろう)


 私自身の失恋を利用して、美しくなってやるんだ。自分を捨てたあいつに見返せるように。いつか忘れられるように。

 一輪の桜を枝から離すと、一枚一枚に想いを込めて、千切り捨てる。

 わざと、嫌いから唱えて。


(嫌い……好き……嫌い……好き……)


 『嫌い』

 私の想いが詰められた最後の花びらを千切ると、茎を捨て、踵を返した。今度は潰れないように、優しく左の手のひらに花びらを持って。

 いつかまた、彼のことを
 好きだと思えますように。

 いつかまた、愛しい誰かと、
 桜を見て笑い合えますように。

 公園の出口でふと足を止め、左手を顔に近づけて手を広げる。俯いて覗くと、ちょこりと佇む桜が一つ。

 しつこく頬を伝う涙。

 それは花びらの表面に落下して、桜は
私の涙に濡れた。








            —完結—

そういえばもうそろそろ桜ブームだな、
と思い、一心不乱に綴った作品です。
最近悲恋ばかり書いている気が…^_^;
日本人って、儚いものが好きですよね。

趣味度…56%。