「…よし。これでどうだろ…」



鍵穴から、針の先に細工をした安全ピンをぬいた。ドアノブを回す。カチリ、と音がして、ドアノブが回転する。


──開いた。


どくん、と胸が高鳴った。悪いことをしている、という自覚が、余計に私の鼓動を速める。ひゅっと、息を飲む。

もうすぐ、チャイムが学校中に木霊する。そんなのはどうでも良いんだけど、なんとなく、気になった。


──初めて、授業をサボる。


屋上へ続く扉の前には、私だけだ。他は多分、教室。今頃、誰かが『黒川がいない』とかなんとか、言ってると思う。

…まぁ、当たり前か。この朝読の時間に、毎朝 読書を欠かしたことのない私が、教室にいないんだから。


『真面目』『淡白』『かしこい』…。それが、周りの、私に対する評価。クソ真面目で、人付き合いに疎くて、テストは平均80点越え。

…それが私、黒川 マリの、評判だ。

まぁ、ね。あながち、間違いじゃない。そんな感じだということは、自分自身が一番理解してる。


…でも。


…違う。私、真面目なんかじゃない。友達がいらない訳じゃない。かしこい訳でもない。私は、ちがうよ。…ちがう。