「あっ、book numberの新曲だ!」


駅前のCDショップにて。
入り口から入ってすぐの新曲コーナーの虜になっていた。
すると私に続いて誰かも立ち止まる。

ふと見上げると、見覚えのある顔が。


「あっ!」「あ」


要先輩だった。

電車で助けてもらって以来、前よりも抵抗感が無くなった気がする。
そして音楽の趣味は合うことも発覚したし。


「今日は、大斗先輩と一緒じゃないんですね」

「ああ、あいつは何か部活の話し合いで帰りが遅くなるらしい」

「部活の話し合い?」

「大斗は次期部長だからな」


次期部長⁉︎
そんな雰囲気はあったけれど、何だか更に遠い存在だな...。
でも部長かあ。かっこいいなぁ。


「要先輩は副部長じゃないんですか?」

「...皆から更に怖いって言われるだろうからやめた」


あっ、何か聞いてはいけない話を聞いてしまった気がする。
実際、見た目は背が高いからか見下ろされている感じからして怖い。


「でも先輩、優しいじゃないですか。あ、この前はありがとうございました」

「...別に。背が小さいのも大変だな」

「先輩の身長十センチ位欲しいです...」


そう言うと、彼は軽く微笑んだ。
笑ったのを見たのは初めてかも‼︎
でも割と真面目に言ったんだけどなぁ。

要先輩は、定期的にbook numberのCDを買うらしく、今日も早速新しいシングルを購入した。
私はお金は無いし、普段はレンタルもあまりしないから羨ましい。

すると先輩は、その様子を伺ったからなのか、


「またこのCD貸してやるよ」


と言ってくれた。

心の中を読まれたようで、驚いたけど凄く嬉しくて舞い上がってしまう。


「あ、ありがとうございます‼︎」


すると彼はまた微笑んだ。
何と無く、笑った顔が素敵だなあと思った。






現在、こじんまりとしたお洒落な喫茶店にいる。
大斗先輩から「もうすぐ話し合い終わるし、話したいことあるから待ってて!」とメールが来たので、二人で待っていた。
特別話す話題も無く、妙に緊張が走る。

その理由も無理はない。
数分前、店員さんがメニューを持ってきた時のことだった。


「あら、かっこいい彼氏さんと可愛い彼女さんですね‼︎」


この一言で、否定するということも忘れ、ただただ恥ずかしいばかりだった。
要先輩もそのようで、耳が少し赤らんでいた。
大斗先輩早く来ないかなぁ。

そう考えていると、来たのは先輩ではなく、注文したパフェだった。
この店の苺パフェがあまりに評判だったので食べたくなったのだ。

しかし驚いたことに、要先輩も同じパフェを頼んでいたのだ。
見た目からすると、甘いものが苦手なイメージなのだが。


「先輩、甘党なんですね。珈琲とか飲まないんですか?」

「あんな苦いもの、一生飲まない」


意外だった。
珈琲を想像しただけで吐きそうだ、とのこと。
何だか可愛い。


「んーっ‼︎ 美味しい‼︎ 苺甘い!」

「おやおや、二人揃ってパフェな感じ?」



「大斗先輩‼︎」


何故か涼しげな雰囲気で登場した先輩。
凄く嬉しそうな顔に見える。


「遅いぞ」

「いや、ごめんごめん。あっ、店員さーん‼︎ 珈琲ブラックくださーい‼︎」

「ぶ、ブラック⁉︎ 大人ですね」

「俺、甘いの苦手なんだよねー」

「要先輩と真逆ですね」


そ、もう要ちゃんったら乙女なんだから♪ と言う大斗先輩の言葉に、鋭い睨みを利かす要先輩。
好きなものは真逆でも、仲が良いって羨ましい。


「んで、本題なんだけど...」


いきなり声のトーンが変わったので、反射でパフェを食べる手が止まり、緊張が走る。








「今年のバンドメンバーは、俺ら三人に決定しましたー‼︎」







「えっ...ええっ!!?」


ど、どどどどういうこと!!?
第一、私達三人ともギター担当じゃ...。


「さ、三人でギターするんですか?」

「ぶっ、三人でギター...」

「ははっ、本当に園子ちゃんって面白いね。実は、俺ベースも出来るんだよね」

「そうなんですか⁉︎ かっこいい‼︎」

「えへへ、ありがt」「俺はドラムとキーボードとバイオリン専門だ」

「ひぇっ⁉︎ か、要先輩多彩なんですね⁉︎」


珍しく大斗先輩に対抗する要先輩。
ここの軽音部の方々は何でも出来るんだなぁ。
圧倒されそうだ。


「じゃあ、ボーカルは誰がするんですか?」

「あー、園子ちゃんのつもりなんだけど」

「そうなんですかー。...そうなんですか!!!!? えっ、え!!!?」

「どうしてもこちらの都合で、メンバーが三人になっちゃってさ。園子ちゃんには、ギターボーカルを頼みたいんだけどさ」


ぎ、ギターボーカル...。そんな大役を私にやれと⁉︎
第一、ギターもまともに出来ないのに‼︎


「園子ちゃんがギターに慣れるまでは俺がボーカルするからさ」

「ぎ、ギターのご指導よろしくお願いします...」


何か凄い展開だけど、頑張るしかないよね‼︎
大斗先輩とも触れ合う機会が増えると思えば‼︎


明日から頑張るぞー‼︎