私のことをまだ探してくれていた結衣が帰ってきたところで、お母さんと私2人きりでリビングの1人掛けのソファーにお互い座る。
「お姉ちゃん、私はお部屋に言ってるけど…、ちゃんと話してね。」
結衣が笑って言った言葉に、"頑張れ"って言われているような気がして、うん、と私も微笑み返す。
満足そうな顔をしてリビングを出て行った結衣を見送ってお母さんと向き合った。
「…夢空が生まれたのは、朝の5時だったの。」
「…え?」
「すごい大きい声で泣いて、元気で無事に生まれてきてくれたことが何よりも嬉しかった。天使から贈り物が届いたみたいに。この子は今私の娘になったんだから、大切にしなきゃって感じた。」
思い出すように、目を細めて、柔らかい表情を見せるお母さんをいつぶりに見たんだろう。
…ううん、初めて、かな。
「初めての育児だから大変なこともたくさんあった。何をすればいいかわからなくて、焦りすぎたことも。…それでも夢空はすくすく育ったわ。妹の結衣が生まれて、夢空ももっと楽しく過ごせるって思ってた。」
そこまで話したお母さんが、眉を寄せて寂しそうに笑った。
「夢空は小さい時からほとんど何でもできる子だったの。…それこそ親の手も借りずに、1人で。」
「私が…?」
全く記憶になくて、首を傾げる。
何でもこなせるほど、自分を器用だと思ったことはないし。
「そうだったのよ、だから…、色んな人に"夢空ちゃんは1人で何もかもやらせた方が伸びる子だ"って言われたの。」
その瞬間、また泣きそうな顔をしたお母さんが視界に入った。
「…何が正解か、わからなくて。言われるがままに、夢空をなるべく1人で何でもやらせるようにしたの。そしたら夢空、本当に色々なことを吸収して。…ああ、この子は私がいない方が出来るんだって、思った。」
…その当時にお母さんも悩んだんだってわかるくらい、表情が苦しげになる。
私の、知らないお母さん。


